【書評】『キーエンス解剖』西岡杏(著)・日経BP
【最強企業キーエンスの実態を解説した貴重な一冊】
本書は日本で一番注目されている企業といってもおかしくはないだろうキーエンスの実態を解説した一冊となっている。
個人的にも、現在勤めている会社で今後の組織改革提案のため資料を作成しようと思っており、企業の成功事例を手当たり次第情報収集しているところだったことから、この本は即買いさせていただいた。
キーエンスの印象としては年収が以上に高い企業で厳しそうなイメージしかなかったが、その実態はベールに包まれている。
実際にキーエンス関係の本は書店に足を運んでも驚くほど少ない。
そういった意味でもキーエンスの解説書として価値のある一冊となっている。
【キーエンスを象徴する4つの数字】
本書ではキーエンスを象徴する4つの財務的数字を取り上げている。
①時価総額14兆4782億円(日本第3位)
②売上高営業利益率55.4%(製造業平均5.2%、ファナック25%)
③自己資本比率93.5%(製造業平均49.4%)
④平均年収2183万円(三菱商事1559万円)
注2022年3月期。製造業平均は2021年度、出所は法人企業統計調査
どれを切り取っても素晴らしい数字なのだが、一番インパクトがあるのが売上高営業利益率55.4%であろう。
売上高営業利益率とは売上全体に占める営業利益の割合であり、利益の半分は本業で稼いでいるということになり、営業の組織的強さと製品の優位性の高さを示す数字となっている。
本書を読んでその源泉はどこにあるのか僕なりに3つあるのではないかと理解したので、取り上げてみようと思う。
【キーエンスの力の源泉】
キーエンスの力の源泉としては以下の3つが重要である。
1.「即納システム」
2.「顧客の潜在ニーズの把握」
3.「情報共有の文化」
このそれぞれを本書から取り上げてみよう。
「即納システム」
キーエンスのウェブサイトには、「全商品当日出荷」「全商品在庫あり」こんな売り文句が躍る。
これがキーエンスの象徴のひとつである「即納」である。
「ソクノウ」と社内外で呼ばれるこの体制は、顧客からの注文を受け取ったらその日に出荷する「当日出荷」とのことを示す。
これを実現するにはキーエンス自体が物流施設を自前で持ち、全国の注文を一括管理して、出荷までを請け負うことをしないと実現不可能である。
そこまでして顧客の要望に応えるということを企業として実践しているのである。
特にキーエンスは産業用製品を扱っている会社であり、工場などで使う製品が主である。
欲しい商品が一日遅れるだけで大きな損害になるなかで、当日出荷を徹底していることは顧客ニーズを大きく捉えているのだろうと想像できる。
「顧客の潜在ニーズの把握」
「どういう商品を開発するかを、お客さんから言われて決めているようでは、既に遅いんです。顧客の要望通りのものを作っていても、付加価値は高くならない」
キーエンス創業者の滝崎武光氏のインタビューでこう答えている。そしてこう続けた。
「開発陣は現在の市場を把握したうえで、顧客自身が気づいていないような潜在需要を掘り起こさないとダメです。現在、760人の社員のうち約100人が研究開発に関わっていますが、彼らが他人から依頼された仕事をせず、自分から問題を見つけ、解決方法を探るよう持っていくのが、経営の重要課題だと思っています。」(『日経ビジネス』1991年6月24日号)
ここにキーエンスの付加価値率の高さが垣間見える。
相手がわかっているニーズを満たしているようでは付加価値はつかない。相手が気づかないようなニーズを見つけることが付加価値を高めることに繋がる哲学がキーエンスにはある。
キーエンスが付加価値の目安としているのが「粗利8割」という数字である。つまり、原価の5倍の価値(価格)を生み出すニーズを探すことを意味している。
産業系の製品は僕にはわからないので具体的にはわからないのだが、顧客の潜在ニーズを探るのが企業の生命線であり、それを徹底していることが高い営業利益率につながっているのがキーエンスである。
「情報共有の文化」
キーエンスは情報共有を徹底している。
特に営業のいわゆる日報にあたるものは、読んだ感想からいうとかなりの負担になっていることがわかる。
営業にはその日にどのような行動をしたのかを何かしら報告している会社がほとんどだと思う。
詳細までは紹介されていないのだが、僕の感覚だと通常の日報より3倍ぐらい細かい印象である。
そして、キーエンスの営業担当者の1日のアポイントは最低5件からであり、日報も1分単位でスケジュールを入力している。
そこまで徹底しているからこそ、問題点も早く解決することができるし、顧客ニーズにいち早く対応できることに繋がっていつと思う。
それが全社でリアルタイムで共有されているところがキーエンスの大きな強みになっている。
また、全体を通してだがキーエンスは属人化を絶対させないという文化がある。全てを仕組み化して誰でも同じ質の行動ができるように徹底していることにも注意が必要である。
いかがだったろうか。
我々が学ぶべきところが非常に多い一冊となっているので、是非一度読んでみて欲しい。
【さらに理解を深めるために】
『小倉昌男 経営学』小倉 昌男(著)日経BP社