【書評】『ファスト&スロー 下』ダニエル・カーネマン著・ハヤカワ・ノンフィクション文庫
【本書の読みどころ】
現在の心理学や行動経済学の分野で主流となっているバイアスについての教科書であり、おそらく原著になると思われる
その下巻である
本書では様々なバイアスの続きと結論がまとめられている
一番の読みどころは二つの自己である「経験する自己」と「記憶する自己」だろう
そして結論まで読み終わると合計600ページを優に超える大作を読み切ったことになる
バイアスの旅をしている気分になり、読んだ時の達成感も大きかった
【さらに理解を深めるために】
『ファスト&スロー 上』ダニエル・カーネマン著・ハヤカワ・ノンフィクション文庫
結論をどうまとめるのか
行動経済学のバイアスをめぐる旅も下巻で終わることになる
これまで様々なバイアスを取り上げ詳しい解説を積み重ねてきて思ったのは、
「これは結論はどうなるのだろう?」
ということだった
これだけ多くのバイアスを取り上げ体系化してしまうと、結論をまとめるのは非常に難しいと感じたし、自分が著者ならどうまとめればいいのか見当つかなかったのだ
本書の結論としては、すべてのバイアスを排除することはできない
むしろこういうバイアスがあるのだという知識を持ち、気付きを与えるのが目的なのだとわかった
なんとも言えない結論ではあるが、これは著者でさえバイアスを完全に排除することは不可能であることを示している
そして著者はこう語っている
「システム2は、合理性の鑑とは言い難い。システム2の能力は限られており、アクセスできる知識も限られている。私値の思考はつねに理路整然としているわけではないのだから、出しゃばりの不正確な直感ばかりが判断ミスの原因ではない。私たちがひんぱんに誤りを犯すのは、システム2の知識や能力不足が原因でもある」
その知識を能力不足を補ってくれるのが本書の役割であり、著者の結論である