【書評】『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』一条真也(著)・だいわ文庫
【世界を知るには宗教の理解が不可欠】
本書はユダヤ教とキリスト教、そしてイスラム教についての歴史とその内容を解説したものとなっている。
特に最近は中東問題が再燃しているが、この問題についてはこの3つの宗教の理解がないと何か起こっているのか全く理解できない。
本書では中東問題についても、その原因とここまで泥沼化しているのかがご理解いただけるだろう。
そして、日本は歴史上仏教が根ざした国であることから中々他の宗教を学ぶ機会が少ない。
しかし、仏教は細かい流派をひとくくりにしても世界全体の宗教の7%でしかない。
世界全体でみると、最も多い信者がいるのがキリスト教で2位がイスラム教であり世界人口の50%以上をこの2つの宗教で占められている。
そして、この2つの宗教のもとになっているのがユダヤ教である。
この3つの宗教を知ることは世界で何か起こっているのかを知ることのできる重要な知識なのである。
【世界のスタンダート宗教の基礎を勉強するには最適な本】
この3つの宗教についての詳しい説明については本書を読んで確認いただきたいが、仏教の関係も含めて簡単に解説しておこう。
まず、本書の3つの宗教と仏教の一番の違いは啓典の有無にある。
3つの宗教には啓典があるが、仏教には啓典がないというのがもっとも異なっている点なのである。
本書の内容を確認してみよう。
「仏教の中には経典はたくさんあっても啓典がない。経典の中の経典とされる『般若心経』でさえ経典ではない。仏教の経典は膨大であり、『法華経』でさえ釈迦入滅後1000年以上も後に作られたというが、その後も多くの経典が続々と作られている。仏教には啓典がないゆえに、経典の無限の成長を許したのだと言える」
啓典とは、絶対なる教えが書かれた最高教典のことであり、おおざっぱにいえば、ユダヤ教は『旧約聖書』、キリスト教は『新約聖書』、イスラム教は『コーラン』を啓典としている。
その意味で仏教は他の宗教とは異なっているのである。
そして、3つの宗教の最大の違いは信仰対象に集約される。
すなわち、イエスという存在をどう見るかが、3つの啓典宗教の最大の論点となっているのだ。
イエスを人間それも犯罪者として見ればユダヤ教
イエスを神として見ればキリスト教
イエスを予言者としてみればイスラム教
になるわけである。
この解釈の違いが、十字軍遠征やナチスのホロコースト、中東戦争や9.11同時多発テロにつながっているのである。
ユダヤ教はユダヤ人であることが条件であるので単純ではあるのだが、キリスト教、イスラム教は基本的な考えは一致していても様々な細かい違いがそれぞれの宗教にはあるので、本書でしっかりと確認していただきたい。
特にキリスト教ではカトリックとプロテスタント、イスラム教ではシーア派とスンニ派の違いは必須である。
是非、本書で各宗教への理解を深めて欲しい。
グローバル化した現代では英語と同じく一般教養として知っていくべき内容だと僕は思っている。
【さらに理解を深めるために】
『世界の民族超入門』山中 俊之(著)ダイヤモンド社