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【書評】『半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防』クリス・ミラー(著)・千葉敏生(訳)・ダイヤモンド社

 
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【AI時代の真の制約】

本書は現代の最も重要な資産である半導体の世界間の歴史と変遷をまとめた大作となっている。

本書は、台北からモスクワまで、3つの大陸にまたがる歴史的文書の調査や、100人を超える科学者、技術者、CEO、政府官僚へのインタビューに基づき、こう結論づけた。国際政治の形、世界経済の構造、軍事力バランスを決定づけ、私たちの暮らす世界を特徴づけてきた立役者は、半導体なのだ。

つまり、半導体を知ることは世界情勢を知ることと同義なのだ。

AI時代においては、データこそが新たな石油だとよく言われる。しかし、私たちが直面している真の制約は、データではなく処理能力の不足にある。

つまり、半導体戦争とはデータ量の問題ではない。

その処理速度の問題であり、その問題が現在の国家間の力関係に密接に関わっている。

その全体像をこの一冊で学ぶことのできるのが本書である。

【本書の構造と全体像】

本書は半導体の歴史を一から解説している。

まず、シリコンバレーの始祖からアメリカが半導体産業の基軸になった。

その後日本が台頭し、日米経済戦争とも言われた激しい競争があった。その最大の焦点は半導体である。

その後アメリカの半導体産業の復活を見せる。その裏には韓国と中国、台湾の台頭があった。

そして近年は中国とアメリカの半導体をめぐる争いが記憶にも新しい。

つまり、本書は1950年代から2020年ぐらいまでのここ70年の半導体をめぐる国家間のパワーバランスを誰にでもわかりやすくまとめてくれているのだ。

500ページ以上の大作となっていることから詳しい内容の説明は省かせていただくが、現在の国際情勢を知りたいのなら本書を整理しておくことは必須となるだろう。

なぜならば、半導体の処理速度の恩恵を受け、必要としているのは軍事産業だからであり、半導体の処理速度は国の命運をも左右するのだ。

【国民が知っておくべき情報】

本書を読んで思うのだが、著者の各方面への取材力と人脈、そして丁寧な文献や国家的文書の精査には感嘆する。

半導体を知らない方にもわかりやすく約70年の歴史とその重要性を浮き彫りにしてくれている。

現在は半導体に対する米中の対立がもっとも注目されていると言えるだろう。

著者はこの点についてこのようにまとめている。

現在の米中対立の命運を決するのは、おそらく計算能力と見ていいだろう。米中両政府の戦略家たちは今や、機会学習からミサイル・システム、自動運転車、武装無人機にいたるまで、先進技術には最先端のチップ(より正式な名称を使うなら、半導体または修正回路)が不可欠であることを認識している。

そして、その半導体の製造を支配しているのは実はごく少数の企業であり、そのひとつが台湾のTSMCである。

TSMCは世界の最先端プロセッサ・チップのほぼすべてを製造している会社であり、世界的にも半導体では最重要な企業の一つである。

このように現在の半導体はアジアを抜きに考えることができない。

日本も対岸の火事ではないことを教えてくれた一冊だった。

世界情勢を正確に知るには半導体のパワーバランスを知ることが不可欠であり近道である。

読んだことがない方は是非一読を強くお勧めする。

【さらに理解を深めるために】

『未来を語る人』大野和基(編)・集英社インターナショナル

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