【書評】『絶望名人カフカの人生論』フランツ・カフカ・頭木弘樹(編訳)・飛鳥新社
【ネガティブを代表する作家カフカ】
本書は20世紀最大の作家と称されることもあるカフカの日記や手紙などをまとめたものとなっている。
面白いのはその内容である。
内容全てがネガティブなのだ。
読んでいるとわざと書いたのではないかと疑うほどネガティブであり、読み慣れてくると笑えてくるほどネガティブなのだ。
どこから切ってもネガティブ。
まずはそのカフカのネガティブっぷりをご覧いただこう。
【カフカのネガティブな言葉たち】
「カフカの言葉その1」
人間の根本的な弱さは、
勝利を手にできないことではなく、
せっかく手にした勝利を、活用しきれないことである
「カフカの言葉その2」
生きることは、たえずわき道にそれていくことだ。
本当はどこに向かうはずだったのか、
振り返ってみることさえ許されない。
「カフカの言葉その3」
ちょっとした散歩をしただけで、
ほとんど三日間というもの、
疲れのために何もできませんでした。
「カフカの言葉その4」
幸福になるための、完璧な方法がひとつだけある。
それは、
自己のなかにある確固たるものを信じ、
しかもそれを磨くための努力をしないことである。
「カフカの言葉その5」
いつだったか足を骨折したことがある。
生涯でもっとも美しい体験であった。
「カフカの言葉その6」
彼は、彫像を彫り終えた、と思い込んでいた。
しかし実際には、たえず同じところに鑿を打ちこんでいたにすぎない。
一心に、というより、むしろ途方にくれて。
いかがだろう?
どこまでもネガティブという意味がご理解いただけたと思う。
だれでもネガティブな一面は持っているがここまで徹底していると、自分のネガティブは本当にネガティブなのかと疑ってしまうくらいだ。
そして頑張らなくてもいいのだという心の安定を与えてくれる不思議な力を持っている(笑)。
【絶望から得られるものもある】
本書はネガティブ名人カフカの言葉を通じて、カフカの本来の魅力、そして絶望っぷりを味わう本となっている。
この本を読んでいるとネガティブもここまで極端になると、逆に大きなことを成し遂げられる力を与えてくれるものなのだと思った。
本当はポジティブとネガティブは同じものかもしれない。
僕は本書を読んでそう思った。
そしてカフカで特筆すべきはここまで絶望の淵にいながら自ら命を断つことをせず、生き抜いたという事実がある。
カフカの親友マックス・ブロートはカフカへの手紙でこう語っている。
「君は君の不幸の中で幸福なのだ」
人を前に進めるのは、ポジティブな力だけとは限らない。ネガティブさからも同じく力を引き出せることを教えてくれる。
もし絶望の淵にいるのならこのカフカの言葉を読んで欲しい。
絶望の中だけで生き抜いたその魂に触れることができるだろう。