【書評】『ZERO to ONE 君はゼロから何を生み出せるか』ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ(著)瀧本 哲史(序文)関 美和(訳)・NHK出版
【スタートアップ企業についての教科書】
本書は、1998年にPayPalを共同創業して会長兼CEOに就任し、2002年に15億ドルでeBayに売却し、現在起業家、投資家として絶大な影響力を持っているピーター・ティールのスタートアップの本である。
スタートアップのプロである著者が、スタートアップについて綴ったというだけで一読のっ価値があるだろう。
そして、本書はスタンフォード大学の学生向けに行った「起業論」の講義をもとになっていることから、少し古い本ではあるが、スタートアップの教科書としての位置付けて読むとよいだろう。
内容としては著者のスタートアップの経験を時系列で語っていく構成となっており、その都度、重要なことを思うがままにまとめてられている。
読んでみると内容が整理してまとまっているとはいえないので、読む際にはどこが重要なポイントなのかを読者でピックアップする必要があることに注意が必要だ。
そこで、今回はスタートアップ起業について、著者が特に強調している個所をセレクトしてまとめておこう。
【スタートアップの重要箇所まとめ】
著者が強調していたと僕が思った箇所は以下の3点である。
1.「グローバリゼーション」ではなく「テクノロジー」の方がはるかに重要
「グローバリゼーション」はある地域で成功したことをほかの地域に広げることである。
そして、ゼロから1を生み出す垂直的な進歩を「テクノロジー」という。
著者が強調しているのは「テクノロジー」はコンピューターに限ることではなく、ものごとへの新しい取り組み方、より良い手法はすべて「テクノロジー」ということだ。
そして、グローバリゼーションは資源の限られたこの世界で、新たなテクノロジーなきグローバリゼーションは持続不可能であることを指摘している。
2.ビジネスの上での考え方の違い
「今までの常識」
・少しずつ段階的に前進すること
・無駄なく柔軟であること
・ライバルのものを改良すること
・販売ではなくプロダクトに集中すること
「スタートアップの考え方」
・小さな違いを追いかけるより大胆に賭けた方がいい
・出来の悪い計画でも、ないよりはいい
・競争の激しい市場では収益が消失する
・販売はプロダクトと同じくらい大切だ
つまり、今までの常識とはまったく逆の考え方をしているのだ。
3.競争企業と独占企業
著者はこう語っている。
「生き残りを賭けた厳しい闘いからの脱却を可能にするものは、ただひとつ、独占的利益だ」
「経済理論の当てはまらない現実世界では、他社のできないことをどれだけできるかで、成功の度合いが決まる。つまり、独占は異変でも例外でもない。独占は、すべての成功企業の条件なのだ」
独占と聞くとマイナスのイメージを抱く方もいらっしゃるかもしれないが、著者は独占こそがもっとも重要であることを指摘している。
独占については、本書全体の20%前後のページを割いていることからも最重要事項としてよく読んでおくことをおすすめする。
【未来の偉大な企業を見つける】
本書はスタートアップ起業、すなわちゼロから1を生み出す考え方をまとめたものとなっている。
今回はご紹介できなかった、人類とコンピューターの今後の関係や、どんなビジネスでも答えを出すべき七つの質問、そして環境テクノロジー起業と成功したテクノロジー起業の対比など面白く、学びの多い論点が盛りだくさんだ。
僕個人としての感想としては、スタートアップ企業の投資の基準に使ったり、今後も現れるであろう「偉大な企業」をさがすことにも役立つ内容だと思った。
そして、自分たちの手でスタートアップ企業を創りたいと思っている方々への羅針盤ともいうべき本だと思う。
今後の企業の「形」を考える上でも役立つので是非手に取って読んでみて欲しい。
【さらに理解を深めるために】
『失敗の科学』マシュー・サイド著・ディスカヴァー・トゥエンティワン
『ハングリーであれ、愚かであれ。』竹内 一正(著)朝日新聞出版