【書評】運を育てる 肝心なのは負けたあと 米長邦雄(著)・クレスト社
勝利の女神に愛されるには?
将棋のプロ棋士である米長先生が運についてまとめたのが本書だ
僕は米長先生が大好きで、棋風も好きなのだがなにより人間性が好きだ
特に最年長名人を獲られた50歳からの人間性は私が理想とし、目標とするものだ
将棋という勝負の世界で生きてこられた米長先生が勝利の女神に愛されるにはどうしたらいいのかを説いたこの本は、とても面白く、学びも多い
それでは勝利の女神に愛されるために何が必要なのかをいくつか取り上げてみよう
「惜福」
本書には「惜福」(せきふく)ということばが出てくる
これは明治の文豪・幸田露伴が、その著著『努力論』の中で運命と幸福について説明したのが「惜福」という言葉だ
“「惜福」とは、文字どおり福を惜しむことで、自分に訪れた幸福のすべてを享受してしまわず、後に残しておくという意味である”
つまり、自分の幸福を全て使ってしまわずに、とっておきなさいということだ
幸福を自分のために全て使ってしまわずに、人にも分け与えて、将来の自分にも残すという考え方であり、勝利の女神を引き寄せる重要な要素だと語っている
“運・不運は単なる巡り合わせではない。「惜福」を考えない人には来るべき運も来ない”
「消化試合には運が賭かっている」
私がとても好きな言葉であり、米長先生の勝負師としての考えが凝縮されている
米長先生はこう語っておられる
“勝負師といえど人間である。相手には大一番でも自分にとっては消化試合、そんな場合、情としては、ともすれば力を抜きたくなる、上手に負かされたいという気持ちになる。
だが、そんな感慨を吹っ切って、全力投球しなければなけない。勝利の女神は必ずこれを見ているからだ。勝敗の結果ではなく、全力投球するか否か、どんな心構えで対局に臨むかを、「彼女」はじっと見ているのである。
しかも恐ろしいことに、このとき「彼女」にそっぽを向かれれば、以後、勝負師としての運気は大きく傾いてしまうのである”
そしてこうも語っている
“消化試合にも全力を尽くす。つまり、その一途な姿勢こそ、女神に惚れてもらえる最も重要なポイントのひとつだ。
これは、なにも一局の対局だけを指しているのではない。日々の積み重ねをも言っているのである。”
米長先生の器量を本書で味わって欲しい
真剣勝負は勝負の前に勝敗は決まっているとよくいわれるが、その通りだと納得できる本である
日々の心がけ、努力の積み重ねがその瞬間の勝負を決めているのだと考えさせられる
将棋を知らない人も楽しく読むことができ、学びも大きいのでぜひ一読してみて欲しい
米長先生が最年長名人を獲られた時、その当時の若手であった羽生善治に教えを乞う、自分の将棋をすべて壊して作り直したとおっしゃっている
自分が勝負の世界で生き残るために、自分の子供よりも若い若手に交じって、教えを乞うことは並の人間性で出来ることではないと思う
“過って改むるに憚ること勿れ(あやまってあらたむるにはばかることなかれ)”
勝負師としての、その謙虚さもまた勝利の女神に愛される条件の一つであるらしい