【書評】『天才たちの日課』メイリン・カリー(著)金原瑞人/石田文子(訳)・フィルムアート社
【天才たちの日常をそのまま記録している】
この本の訳者あとがきにはこうある。
「本書は過去から現在までの著名な作家、芸術家、音楽家、思想家、学者など161人をとりあげ、それぞれ仕事、食事、睡眠、趣味、人づきあいなどにどう時間を割り振っていたかを紹介したのが本書だ」
つまり、天才たちの日常をどう過ごしていたかということを単純に書き綴ったものとなっている。
非常に単純であるが、面白いコンセプトであり読んでいて面白い。
天才たちはどのような日常を送ることで、著名な人物になることができたのか。
私が読んでみた、天才たちの日課をまとめてみることにしよう。
【拍子抜けするほどシンプルな生活を送る必要がある】
本書を読んでみて、天才たちの日課で圧倒的に多いパターンは3点あり、
1.仕事が中心の生活をしている
2.規則正しい生活をしている
3.朝から午前中の間に多くの仕事を終わらせている場合が多い
この3つが特に際立っていると感じた。
本書の内容を引用しながら解説していこう。
1.仕事が中心の生活をしている
本書で取り上げている人たちは著名な人物しか登場していない。
ということは何かしらの成果・結果を残した人たちである。
だから当たり前といえば当たり前なのだが、どの人たちの日課を読んでも「仕事が中心に生活が成り立っている」ことを強く感じた。
特に著名な人物は仕事に対する執着心が際立っている。
それは仕事への愛である人もいるし、強迫観念である人もいた。
いずれにせよ、「成果・結果をあげる仕事を中心に生活をすること」これを我々凡人は理解する必要がある。
「必死で働いてきた人生を振り返ってみて・・・私の唯一の後悔は、もっと必死で働けなかったことだ」H・L・メンケン(アメリカの批評家でジャーナリスト。1日に12時間から14時か働いていた)
「毎日決まった日課をこなすことが生き残るための条件だ」フラナリー・オコナー
「結局、仕事はいままでも人生から逃避する最高の方法なのだ!」ギュスターヴ・フローベール
「私は毎日書かなければならない。それは成果をあげるためではなく、習慣を失わないためだ」レフ・トルストイ
2.規則正しい生活をしている
本書を読んでみると全体の8割は規則正しい生活をしている。
残り2割はまったく人間の生活として成り立っていない。
著名な人たちなので様々な生活スタイルがあるのだが、ほとんどは退屈になるほど規則的で単純な生活を続けているのだとわかる。
そして、その規則的で単純な生活を続けていることそのものが成果をあげる唯一の方法だと理解しているということがよくわかる。
「人生は習慣で創られる」
それを体現しているのが天才たちなのだということがよく理解できた。
「朝起きて、トレーニングをして、さっとシャワーを浴びて、固ゆで卵の白身三個分とコーヒー一杯の朝食をとり、必要な電話をかけて、メールや郵便物の処理をして、二時間ストレッチをして、スタジオで一人でアイデアを練って、主催する舞踏団でけいこをつけて、午後遅くに家に戻って、こまごました仕事を片づけて、早めに夕食をとって、二、三時間静かに読書をする。これが私の一日で、それを毎日繰り返す。ダンサーの人生は繰り返しがすべてだ。」トワイラ・サーブ
「一日に少なくとも三時間は、いま取り組んでいる新作のために時間を割くようにしている。しっかりと習慣を守ること、それが最後までやり遂げるコツだ」ジョン・アップダイク
「毎日決まった日課をこなすことが生き残るための条件だ」フラナリー・オコナー
3.朝から午前中の間に多くの仕事を終わらせている場合が多い
様々な著名人の生活を読んでいると、圧倒的に朝から午前中に期限を設けて、やるべき仕事をその間に終わらせている場合が多い。
クリエイティブな仕事は朝から午前中にやることが改めて重要であることがよくわかった。
さらにその習慣に対して例外を認めない執着が特に顕著であると思った。
「オーデンは午前六時過ぎに起き、コーヒーをいれると早速仕事を始める。その前にクロスワードパズルをやる場合もある。彼の頭脳は午前七時から十一時半までがいちばん冴えていて、この時間を裕央に活用しないことはめったにない。『その日のうちにやりたいこと、やらねばならないことを決め、それを毎日必ず決まった時間にやる。そうすれば欲望に煩わされることはない』」W・H・オーデン
「毎朝五時半に机に向かうこと、そして自分を厳しく律することが私の習慣だった」アンソニー・トロロープ
「長編小説を書いているとき、村上は午前四時に起き、五、六時間ぶっとおしで仕事をする。午後はランニングをするか、水泳をするかして(両方するときもある)、雑用を片づけ、本を読んで音楽をきき、九時に寝る。『この日課を毎日、変えることなく繰り返します』」村上春樹
【凡人には記録と習慣が必要である】
いかがだったろうか?
天才たちの生活を通じて、何かヒントを得られたと思う。
最後にもう一つ重要なことを。
それは「習慣」の大切さである。
本書を読んで天才たちはやりたくないことも「習慣」という力を使って乗り越えている。
そしてそのために自分のやっている仕事のスピードや量を正確に把握している。
つまり、自分の仕事を片付けるためにどれぐらいの時間がかかっているのかを記録しているのだ。
それにより、正確にスケジュールをたてることができ、決まった時間に決まった成果をあげ続ける習慣を天才たちは作り上げている。
我々凡人には自分の行動の記録とそれに基づいたスケジュール管理が重要である。
本書はそれを我々に教えてくれている。