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【書評】『「価格上昇」時代のマーケティング』小阪裕司(著)・PHPビジネス新書

 
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【価格上昇時代のマーケティングの形】

本書の目的について著者はこのように語っている。

「誤解を恐れずに表現すれば、『仕入れ値や原価とは関係なく、値上げをするための本』である」

日本もデフレを脱却しインフレに向かっている。

しかし、我々日本人はまだデフレからインフレへのシフトを十分にはできていない。

「値上げするとお客さんが離れていってしまうのではないか」というメンタルブロックを外し、どう値上げをする上での根本的な考え方を学ぶのが本書の目的である。

僕が本書を読んで、為になったところやポイントだと思うところは大きく3点あり、

「安いことへの弊害を知ること」

「価格は価値に従う」

「目指すべきはマスタービジネスである」

である。

それではこの3点についてみていくことにしよう。

【安いことへの弊害を知ること】

本書で一番印象に残ったのは「安いことの弊害について」だ。

長いデフレを経験してしてきている日本はいい物を安くという意識が根付いている。

しかし、海外では物価が日本とは比較にならないほど上がっている。

アメリカで1杯のラーメンは5,000円以上するのはごく普通になりつつある。

そしてラーメン1杯に1000円前後しかしない日本は海外の方にとってパラダイスなのである。

著者はちゃんとしたランチを1000円以下で食べれる国など日本くらいしかないのではないかと語っている。

問題なのはこの状態が何を生み出すかということだ。

簡単にいうと相対的に日本自体が安くなっているということである。

そして近未来ではこの様な予測ができる。

すなわち、品質の良い高級品はすべて海外に輸出され、日本国内には品質の低いものしか流通しなくなるということも考えられるのだ。

それは日本にとって良いことではない。

相対的に日本が貧しくなることに他ならないからだ。

その意味でもモノの値段を上げるこということは重要な意義があるということを本書で教えられた。

【価格は価値に従う】

それでは本書の肝である「価格は価値に従う」についてまとめておこう。

著者は顧客が価格を決める際には2つのハードルがあると説明している。すまわち、「2つのハードル理論」である。

「お客さんがものを買うまでには、2つのハードルを越える必要がある。最初のハードルは『買いたいか、買いたくないか』、そして、その先のハードルが『買えるか、買えないか』だ。そして、高いのは1つ目の『買いたいか、買いたくないか』のハードルであり、それに比べれば『買えるか、買えないか』のハードルはごく低いものだ。

ということは、我々はまず、お客さんに最初のハードルを越えてもらわなくてはならない。それさえ伝われば、価格のハードルは意外と低い。

つまり、『価格を語る前に価値を語れ』ということであり、それは値上げ局面においても同じこと。価値を伝えたうえで、『この価値だからこの価格です』『この価値を維持するにはこの価格になります』と説くのである。」

それがヒトであれモノであれ価値を顧客に知ってもらうことが現代では最重要課題である。

価値があると顧客が認めてくれれば価格はいくらでもいいのだ。

「ビジネスにおいて、『価格』は主役ではない。主役は『価値』だ」

このことを僕たちは再認識する必要がある。

その価値をどう顧客に伝えて、価格に反映させていくのかについては、「人を軸にした値上げ」と「価値のパッケージ化」という内容で著者が具体的な中小企業の事例を使って解説してくれているので参考にしていただきたい。

【目指すべきはマスタービジネスである】

最後に著者がずっと以前から提唱しているコンセプトである「マスタービジネス」についてだ。

マスタービジネスとは何かというと、

「『お客さんがまだ知らない価値を教える』ことによって、お客さんから対価を得ること。『マスター』とは、言い換えると『価値の運び手』だ。」

「世の中にこれほど多くの商品やサービスが溢れる中、何にお金や時間を使えば意味ある日々を送れるかを教えてくれる存在、それがマスターである」

と著者はまとめている。

そして、このマスタービジネスの重要性は、価格上昇時代において高まっているといえるだろう。

マスターとして新しい世界を示すことができれば、そこに予算は存在しなくなる。それまで知らなかった価値に目覚めてさえくれれば、価格は価値に従い、お客さんは2つのハードルを越えていくからである。」

マスターは簡単に言えば価値を伝える教育の意味合いが強い。

これからはあらゆる分野の「教育」のビジネスは拡大していくだろう。

本書では「マスタービジネス」についても具体的な事例をあげながら詳細にまとめてくれている。

是非参考にしていただきたい。

【所感】

本書は商品の値段を上げる本である。

そして値段を上げるということは価値をあげることであり、その価値を最大化するための方法をまとめているのが本書である。

商売をやっている方は確実に知っておいた方がよい知識であり、関係ないと思っている方も自分のデフレ思考を転換させる本として読む価値はある。

皆さんもうYouTubeはよく見られていると思うが、人気のコンテンツはすべて視聴者に価値を提供しており、価格はその後のはずだ。

まさにこのマスタービジネスに沿ったビジネスモデルだなと思った。

この本を読んで自分の好きなYouTubeをみると本書の理解も現代ビジネスの本質をご理解いただけるだろう。

是非、一度目を通してみて欲しい。

【さらに理解を深めるために】

『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』廣田 周作(著)クロスメディア・パブリッシング

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