【書評】『「顧客消滅」時代のマーケティング』小阪裕司(著)・PHPビジネス新書
【コロナショックがマーケティングに与えたインパクト】
本書は「顧客消滅」時代のマーケティングを考察する本である。
著者はコロナショックの特異点として、「人の動きが止まってしまった」ことをあげている。
現代社会の歴史上人の流れが初めて止まったことにより、マーケットにどのような影響がでたのか、それは「選別消費」だと著者はいう。
『実はコロナ禍の中、顧客は「選別」を行っていた。今までなんとなく惰性で行なっていた店に行けなくなった結果、「別にあの店に行く必要はない」という選択を行った。あるいは「この商品は別になくても困らない」と考え、買うのをやめるという選択を行ったのだ。その結果が。「いつまでたっても顧客が戻ってこない」の正体ではないだろうか。』
この「選別消費」がコロナショックによって早まったというのが著者の考えであり、この「選別消費」時代でどのようなマーケティングが必要なのかをまとめている。
【コロナ禍でも売上が落ちなかった理由】
コロナ禍でも売上が落ちなかった商品として、「心が豊かになる商品」と「コスパがいい商品」の2つがあったという。
『コロナ禍でもいわゆる「心が豊かになる商品」の売上はほどんど落ちなかった。あるいは落ちてもすすぐに回復した。一方、生活必需品はちょっとしたコロナ需要さえ起きた。問題は、そのどちらにも属さないものだ。つまり、「心が豊になるわけではないが、生活必需品ではないもの」。今回、売上が戻らなかったものの多くは、このカテゴリーに属するものであった可能性が高い。
会社が店から顧客が消え、それが戻ってきていないのであれば、その原因は、その会社や店が提供しているものが「心が豊かになる」わけでもなく、「コスパがいい」わけでもない、中途半端なものになってしまっている恐れがある。』
それでは顧客が戻っていない会社はどうすればいいのだろうか。
その解決策として著者は2つの視点を解説している。
すなわち「フロービジネスではなくストックビジネスの顧客を育てること」、「ファンダムを形成すること」の2点である。
この2つの視点の詳しい内容については本書でご確認いただきたい。
どんな業種であっても、顧客を増やし、育て、結果として売上を伸ばす方法を実際の中小企業を具体例にして詳細にまとめてあるので、とてもわかりやすく腹落ちする内容となっている。
【4つの感性と3つの未来】
最後に本書では「ビジネスにおいて必要な4つの感性」と「これからより現実化する3つの未来」についてまとめてあるので簡単に取り上げておこう。
まず、ビジネスに感性がなぜ重要なのかということなのだが、顧客は商品を選ぶ際に感性で選択しているからというのが著者の考えだ。
感性で選ばれている以上、感性を磨くことが必要であるという理屈になる。
ビジネスにおいて必要な4つの感性とは以下の通りである。
1.「部分ではなく、システム全体を見る」
2.「因果関係を見る」
3.「パターンをとらえてモデル化する」
4.「メタレベルとベタレベルを自由自在に行き来する」
の4点である。
そして、これからより現実化する3つの未来について著者はこうまとめている。
1.業種分類は消滅する
2.多くのビジネスが「教育産業」になっていく
3.社交サロンが隆盛する
の3点である。
詳しい内容については本書を参考にしていただければ幸いだ。
本書を読んだ感想としては、現代に合わせたマーケティングを惜しみなく提供していただいたという印象で、非常に参考にさせていただいた。
いつの時代も永続する会社は「顧客がつぶさない」会社であり、顧客とどう向き合っていくのかがマーケティングの本質であることを本書で改めて教えてくれた。
とても面白く、いますぐ使える知識だと思うので手に取って確認してみて欲しい。
【さらに理解を深めるために】
『「価格上昇」時代のマーケティング』小阪裕司(著)・PHPビジネス新書