【書評】『キーエンス 高付加価値経営の論理』延岡健太郎(著)・日本経済新聞出版
【経済学者によるキーエンス研究】
本書は、大阪大学教授であり経済学者である著者によるキーエンス研究をまとめたものとなっている。
キーエンスについての著書はいくつかあるのだが、元社員であるなどの著書が多く、学者がキーエンスについてまとめたものは初めてではないかと思う。
今、僕が勤めている会社にキーエンスの長所をどう取り入れられるかというテーマに取り組んでいることから、キーエンスについての本はある程度読ませていただいている。
その中でも経済学者の解説によるキーエンス研究については非常に興味があり、今回読んでみた次第である。
全体を読んでみると、キーエンスの大きな特徴として「高付加価値」をあくまでも中心に追求していることがあげられる。
もちろん他の企業も同じく取り組んでいるだろう「高付加価値」をキーエンスは今まで続けてこれたのか、ここが一番のポイントになるだろう。
本ブログでは、なぜ「高付加価値」をキーエンスはあくまでも中心に据えているのか、そしてどう実際の企業活動に落とし込んでいるのか、この2点にしぼってみていくことにしよう。
【キーエンスの高付加価値の定義と経営理念】
キーエンスは、創業時点から、「最小の資本と人で最大の付加価値を上げる」を掲げている。
ここで重要なのは、付加価値の最大化は、自社の業績目標に限定されることなく、社会の発展や人々の幸福に結びつく普遍的な経営哲学である点である。
そして付加価値の定義であるが、企業が購入した原材料等に新たに付加された価値であり、簡易化すると売り上げ(総生産額)から原材料費等を引いた差分である。
原材料に「価値を付加」して販売価格にまで高めるので、その差分が「付加価値」または「付加価値額」と呼ばれている。
つまり、キーエンスの「付加価値」とは、売上総利益とほぼ同義になる。つまり、売上高に占める総利益・粗利の割合である。
そして、売上総利益の割合を8割程度と想定し、これまで30年間にわたり、そのレベルをほぼ実現してきたのである。
【高付加価値を実現する企業活動】
本書を読んで高付加価値を実現する鍵はマス・カスタマイゼーションにあると僕は思った。
なぜかというと、いくら顧客企業ごとに対する高付加価値な商品を提供できたとしても大きなイノベーションには結びつかない。特定の顧客企業において大きな価値が創出できそうであれば、さらに他の顧客。業種へ広く横展開しなれば高付加価値を維持することはできないからである。
そのためには特定企業に対する顧客価値を、広範企業に対して顧客価値を提供できるようにする仕組みが必要である。
つまり、特定の少量生産である高付加商品をを大量生産できるようにして多くの企業に適用できるようにしているのである。
その仕組みを実現するためのキーエンスの最大の強みがソリューション営業(コンサルティング営業)であろう。
そしてそれを実現できるのは直販体制を敷いていることがあげられる。
著者はこう語っている。
「顧客企業の利益向上を提案するためには、営業はもちろん、商品開発も、顧客の現場を知り尽くし、個々の顧客企業に合わせた価値の提供が必要である。そのためには、多くの企業を日常的に訪問・観察し、様々な情報収集や意見交換をする必要がある。そのために、当然のごとく、創業以来、ほぼ全面的に自社営業部隊による直接販売(直販)を採用している。海外についても、現在では、すべて直販を徹底している」
直販を徹底し顧客に入り込むことで高付加価値の商品開発を顧客企業ごとに販売し、その多くの情報やノウハウを企業の中で蓄積している結果、多くの企業にアレンジした高付加価値の商品を開発し販売する仕組みがキーエンスには備わっているのだ。
【キーエンスを深く理解する教科書】
本書はキーエンスの高付加価値に対する分析を一冊にまとめたものである。
今回は高付加価値の全体像だけをご紹介したが、さらに具体的に企業としてどのような活動をしているのかも多く紹介されている。
現在の日本でもっとも熱い視線が注がれている、キーエンスを深く知ることができる良書であると思う。
自分の勤めている企業でも参考になることがたくさんあることは間違いない。
本書全体をしっかりと読み込んで欲しい1冊である。
【さらに理解を深めるために】
『キーエンス解剖』西岡杏(著)日経BP
『付加価値のつくりかた』田尻望(著)かんき出版